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暁の星と月
第3章 暁の天の河
暁は咄嗟に大紋の手を離した。
声の主を振り仰ぎ、思わず小さく叫ぶ。
「…風間先輩…!」

馬術部の副部長の風間忍が佇んでいた。
すらりとした長身に黒いジャケット、ドレスシャツの胸元にはネクタイはなく、大胆に開けられている。
ドレスコードぎりぎりの砕けた格好だが、風間の日本人離れした美貌と、どこか享楽的で洒脱な雰囲気にマッチしている。
「…遠くから見て、随分綺麗な男の子がいるなあ…て思ってたんだ。…やっぱり縣だった」
陽気に声をかけてくる風間に、暁は礼儀正しく立ち上がり、大紋に紹介する。
「…春馬さん、星南の馬術部でお世話になっている風間忍先輩です。…風間先輩、こちらは僕の兄の親友の大紋春馬さんです」

大紋は微笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がると大人の洗練された仕草で、風間に握手を求める。
「…初めまして。大紋です。暁がいつもお世話になっています」
風間も握手を交わしながら屈託無く挨拶する。
「こちらこそ…。馬術部のOB会では時々お見かけしていました。…僕はお行儀があんまり良くないから、先輩たちとの会合は苦手で…ちゃんとご挨拶したことはなかったけれど…」
「先輩は、障害馬術が得意なんです。…だから、障害馬術に転向した僕に良く指導してくださって…」
風間が暁の髪を無邪気に撫でる。
「縣は飲み込みがいいからすぐに上達するよ。…秋の大会が楽しみだ。一緒に頑張ろうな?」

大紋が一瞬、眉を顰める。…が、すぐに大人の和かな笑みを浮かべる。
「…暁を可愛がってくれてありがとう。暁は人見知りするから、君みたいに明るい先輩が目をかけてくれると助かるよ。
…でも、余り無理はさせないように指導してくれ。…僕もやっていたから分かるが障害馬術は一番危険な種目だ。…怪我が心配で、本当は転向をさせたくなかったのでね」
やや過剰とも言える言葉に、暁は戸惑う。
「…春馬さん…」
風間が彫りの深い顔に、ふと不遜な色の笑みを浮かべた。
「…へえ…、大紋さんは縣を大層可愛がっているんですね。…とても仲良さ気で…羨ましいです。縣はガードが固いから、ちっとも僕に懐いてくれなくて…」
冗談めいて言いながら暁の肩を抱く。
「…風間先輩…」
困ったように俯く暁を見ながら、大紋は大らかに笑う。
「暁はまだまだ子供なんだ。…お手柔らかに頼むよ」
「…ええ、勿論です」
2人の間に奇妙な緊張感が走る。




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