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暁の星と月
第3章 暁の天の河
大紋が馬房に足を踏み入れると、中に繋がれていたアルフレッドが嬉しそうに嘶いた。
アルフレッドは時折、大紋も騎乗することがあるので、よく懐いてくれているのだ。
大紋も口元を綻ばせる。
「アルフレッド、元気そうだな」
鼻先を撫でて、人参をやるとぽりぽりと美味しそうに食べた。
「…ご主人様の代わりに来たよ。ブラッシングしてやろう」

「…へえ…。縣は来ないんですか?珍しいな」
馬房の入り口から声が響いた。
振り返ると、燕尾ジャケットに白の乗馬ズボン、鞭を携えた風間忍が佇んでいた。
大紋は密かに眉を上げる。
「…風間くんか…」
風間は乗馬帽の庇に手をやり、目礼する。
「昨夜はどうも。…縣は?どうしたんですか?」
「…少し体調を崩してね…。家で寝んでいるよ」
風間の彫りの深い瞳が一瞬眇められる。
その瞳の色が薄く…暁が風間はロシア人とのクォーターなのだと囁いたことを思い出した。
形の良い唇がやや歪められる。
「…へえ…、昨夜は元気そうだったのに…」
「…夏バテだろう。暁は身体も華奢で、さほど丈夫ではないからね」
…君は知らないだろう?と言う意味でさらりと答えると、風間はゆっくりとアルフレッドに近づくと、首筋を撫でる。
「あんまり虐めないでやって下さいね。…秋の大会は体力勝負です。あれ以上痩せられたら困る」
大紋が眉を顰める。
「…虐める?…どういう意味だ?」
風間がくるりと大紋の方を向き直り、面白がるような笑みを浮かべ、しかし大紋をじっと見据えるようにした。
「知ってますよ。貴方、縣の恋人でしょ?…正確には恋人になった…かな?しかもそれは昨夜。…僕が貴方がたに会ったあの後だ」
「…何を言っているんだ」
気色ばむ大紋に風間は拳制するように両手を上げる。
「昨夜、貴方が僕を見る眼で分かりましたよ。…僕が縣に触る度に怖い眼で見て来たから…。でも縣は貴方と少しぎこちなさそうに接していた。だからあの時はまだ深い仲にはなっていなかった。…どう?僕の推理は?当たっていますか?」
人を食ったように笑う風間にどういう態度を取るべきか、大紋は考えあぐねていた。

…大紋の父親は風間の家が経営するホテルの顧問弁護士を務めている。
その息子に不用意な発言をするわけにはいかなかった。
…ましてや暁は彼の後輩だ。暁に不利な証言を残す訳にはいかない。
二人の間に沈黙の時が流れた。





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