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愛してるから罪と呼ばない
第3章 真夏の花達
うだるような猛暑の某日、海水浴場や観光名所で名の知れたここら一帯は、今年も多くの旅行客らで賑わっていた。
ゆうりがひなびと今しがたチェックインを済ませてきた宿泊施設は、のどかな眺望には些か浮いた、都会的なホテルだった。
部屋に荷物だけ置いて出てくると、どこからか潮の香りが流れてきた。その出どころが電車から見えていた海だと分かったのは、地図を頼りに歩いてまもなく、道路の真下に一面の青が広がっていたからだ。
「貸して」
「あゎっ、悪いよぉ」
「ひなびはスマホより重たいものを持っちゃダメ。一緒にいる時くらい、ね?」
垂れた眉尻をいっそう下げたひなびとは、ゆうりはかれこれ十年一緒にいる。
ありふれた友人同士と違っているのは、歳を重ねるごとにいじらしく美しさを増していく彼女に対して、未だ新鮮な感動を覚えるところだろう。
ゆうりは、ひなびから奪った白いパラソルの陰を彼女に被せる。赤が基調のロリィタ衣装を生まれつき身にまとってきたように可憐な姫君に、さっきより近くに身を寄せた。
「ゆうりと相合い傘だぁ」
「ごめんね。半分、日陰借りてる」
「ううん。私が贅沢なくらいだよ。海、カップルさんばっかりだねぇ。こんなにくっついてあすこまで行ったら、ゆうりと私も、お付き合いしているみたいに見間違えられたりするかなぁ」
ひなびが浜辺を見下ろして、可憐な笑い声を立てる。
石垣の下は、確かに二人一組の客が多くを占めていた。