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契約的束縛・誘惑なる秘密
第27章 香港―苦痛とメモリー
(まだだ、まだ核心的な何がが足りない)
片鱗は俺だと理解は出来る、でも俺だけなんだよ。普通誰か居たりするものじゃないのか?
朧気の記憶には俺一人だけ。血溜まりに居るのも、不思議な施設に居るのも、外で拳銃を持っているのも俺一人。そんな欠片だけが頭の中を駆け巡る。
(俺はずっと一人だったのか? ……いや違う、違うと感じるんだ)
俺の近くには誰かが居た、そんな不確定な感覚だが、居たと思うんだよ。……一番大事な『何か』が浮かび上がってこねぇ。
そもそも俺は誰だ、何処で何をやっていた? 普通に暮らしていりゃあ、血溜まりや拳銃なんぞに縁は無いだろ!
「ア"ア"ーー!! ンッグッ……」
俺がもがいている間にも、サザンクロスの苦痛の声が大きくなる。あれだけ破壊的に犯されれば当たり前だ。やはり虚ろにサザンクロスが置かれている残酷な仕打ちを見ながら、俺の中の記憶も呼応しているよう。サザンクロスの苦しげな喘ぎ声を、俺は何処かで聞いた……聞いたと思う。どうして俺が知っている?
「…………ミナミ…………いや…………美波…………」
また無意識に言葉が出る、ミナミじゃない、美波だと。俺が知らない語源……違う、俺は知っている、これは日本語だ。俺は日本に居た……のか?
(日本にも居た……日本にも?)
見えるのは……戦争。
銃を持ち人を撃つ、軍人民間人お構い無く……。殺ならければ殺られる、まるで弱肉強食の動物ように、形振り構わず引き金を引く……それが俺の中の一部。