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契約的束縛・誘惑なる秘密
第29章 歓喜の一夜

「霧斗が言ったように、前を向いて歩いたよ」
「確かに言ったが、闇雲に前を向けという意味では無かったんだがな。俺を振り返るなという意味だったんだ、振り返ってももう俺は居ない……美波を悲しませたくなくて、あんな事を言った」
あの時は振り返っても霧斗は居ない、それが凄く悲しくて……。私は振り返らないようにしていた。前を向いて、ドイツで必死に頑張って……でも、たまには振り返っても良いんじゃないかと言ったのも霧斗。
「でも霧斗がウードゥさんの時に、たまには振り返っても良いんじゃないか、そう言ってくれたお陰で、私は少し楽になったと思う。それまでずっと、振り返らないと心に決めていたから」
「知らずに言った俺の言葉。……そうか、役には立っていたんだな」
「……私の心の中だけ……」
「それで良かったんだ。口に出して言えば、彼奴らだったら美波を心配していただろう。それも後僅か、俺が顔を出せば、本郷と宮野も驚くかも知れんが安心する」
「そうね。霧斗が居ればきっと……」
霧斗の腕の中は、あたたかくて甘い匂いがする。私が安心出来るこの匂いは、何処から来るんだろう? ウードゥさんの時は全く感じなかったのに、霧斗に戻った途端感じるなんて……。
(多分……多分だけど、想いの違い)
想いというより意識かな?
霧斗としての経験値が、この甘い匂いを発しているんだと私は思う。俺様で野性的な霧斗だからこそ、人を惹き付けるような匂いになるのかも知れない。

