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華の王妃
第5章 王弟
アルゴスは周囲を山に囲まれた豊かな国だった。
1年を春夏秋冬が順番に訪れ、山の色どりにそれぞれの趣きが甲乙つけがたい
ほど美しい。
熱い夏が終わり朝夕の風が涼しくなり始めた頃出産を終えてからも
中々床から離れられなかったリンダリアも、ようやく回復の兆しを
見せ始め食も進むようになり、王や御付きの女官達も安どの息を吐くようになった。
「まぁ、私に下さるの?」
「今朝、早駆けの時に摘んだばかりの野苺と山葡萄です。瑞々しく甘もうございます。
義姉上の食が少しでも進むかと思いまして。」
目の前に山盛りに盛られた野苺と山葡萄は食べ頃に色づきとても美味しそうだった。
リンダリアはうっすらと頬を染める少年に微笑むと少年は益々頬を赤らめた。
「ありがとうございます。王弟殿下。」
「あ、どうか私のことを王弟などと他人行儀に呼ぶのではなく名前でお呼び下さい。
あの時のように、ナリエスと・・」
「まぁ・・そのような。」
困ったように首を傾げる兄の王妃に王弟は母親に強請る子供のように懇願した。
王弟殿下の尊称を持つ少年はあの王の弟なのかと思ってしまうほど綺麗で
可愛らしい容貌をしていた。
兄王と違い学問や詩や楽を愛する王弟は王宮ばかりで過ごしているせいか
青白いほど白い肌をしていて体躯もほっそりと折れてしまいそうなほど
華奢だった。
性質も温厚で兄王に従順な為、数多くいた兄弟の中で唯一生存を許された
王子だった。