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雨 音
第1章 記憶

しかしを確かめる間もなく女性社員が周りに群がり始めて、さっと手を放して私は仕事に戻った。
『初めましてぶちょー。私〇〇です~』
『え、部長っておいくつなんですか~?』
『32歳??え、わかぁい!』
『その年で部長ってすごいですね~』
そんな声が部屋に響き、
女性あるあるの陰湿な何かが始まったりしないだろうか、
なんて周りに気づかれないほどの小さいため息をついてコーヒーを煽り一足先に仕事を始めた。
「葉瀬さん、これって…」
「あぁ、それならそこの棚の上から二段目の…ここにあります。はい。」
「ありがとうございます、すいません。」
朝9時半から始まって定時間際、そう一度質問されただけで後は全部自分でこなす。
ここの部のメンバーの名前も全員覚えているようだった。
さすが32歳で部長になるだけの力はあるんだな、と思わせる仕事ぶりだった。
おかげで私の仕事も去年の今頃に比べて格段に早く終わっている気がする。
「…っと、これで今日の仕事は終わり、と…。」
いつもより多い仕事量に定時で帰れないかも、なんて覚悟していたけどむしろ定時前に終わった。
「あ、雫さん~!
今日部長の歓迎会しよう、って案が出てるんですけど課長これますか?」
そういうのはお祭り大好きなムードメーカー 梶崎 悠―かじさき はる―。
"ミーハー"でおなじみ絵里ちゃんともう一人の私が教育係を担当した男の子だ。

