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サイレントエモーショナルサマー
第9章 その薔薇の色は、
「ここ、剃りましょう」
「はい?」
おうおう、いつの間にかシェービングフォームのボトルと剃刀を握っていらっしゃる。
「いや、待って。そういうの私には効果ないよ。毛があるから性欲ある訳じゃないし」
「男はね、志保さんみたいな一見おとなしそうな人の毛が無いと本命の気配感じて怯むんですよ。俺の主観ですけど」
「藤くんはいつから私の本命になったんですか」
「心はまだだですけど身体はもう本命みたいなものでしょ」
「荒っぽいポジティブだな!」
「大人しくしてください。切れたら嫌でしょ」
「…ほんとに剃るの?」
「剃ります」
「じゃ、じゃあ藤くんも剃ろう。そしたらいい」
しゃかしゃかとボトルを振っていた手が止まる。これといってアンダーヘアを死守したい理由がある訳ではなかった。毛があろうがなかろうが性癖の満たされるセックスが出来そうな相手がいれば私は股を開くしょうもない女だ。
それを考えると藤くんの言ったことは中々的を得ている。彼とのセックスは私の性癖と合致している訳ではないのに私を夢中にさせている。キスだけでとろけてしまうのも本当に彼だけだ。
「分かりました。俺のは志保さんが剃ってくださいね」
「…え!?」
「なんですか。自分で言ったくせに」
「嫌じゃないの?」
「嫌じゃないですよ。志保さんの前以外で脱がないし」
前にふざけて隼人に毛を剃ってくれと言った時、彼が頑なに拒んだから男性は皆一様に嫌がるものだと思っていたのだが大失敗だ。
「震えてる。大丈夫、流石にこれで痛くはしないですから」
「は、恥ずかしい…」
「…まだ、恥ずかしいって感情持ってたんですか?」
その疑問は尤もだ。既に身体の隅々まで見られている上に何度もセックスをしている。他の男としていることまで知られているし、彼のパンツだって穿いていて、彼の前で初めて覚えた恥ずかしいという感情が毛を剃られる瞬間だなんて誰が想像できただろう。