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サイレントエモーショナルサマー
第12章 融解の兆し

雨の少ない梅雨だと嘆かれていたが、今朝は久方ぶりの大雨だった。窓を叩く雨粒は大きく、空はどんよりと暗い。跳ね返りの目立たない服と汚れても良い靴で家を出たはいいが、会社に着くと濡れた足元が気持ち悪かった。

「都筑さんと藤、今日はペアルックみたいですね」
「……それ朝から散々言われてるからもういいよ」

ブルーのストライプのシャツに黒いズボン。示し合わせたわけではないのに誰がどうみてもペアルックの私たちは朝から社員たちにいじられまくっていた。ズボンのタイプは違ったが、ストライプの色合いから線の細さまで似通っていればいじりたくなるのも無理はない。

そのいじりが私に集中するのは、藤くんがそれを言われるとデレデレと喜ぶ所為だ。彼らも喜ぶ人間よりも眉を顰める奴をいじった方が面白いらしい。

普段はほぼ空気と化して冗談など言わない部長にまでいじられ、服を脱ぎたくなったことは言うまでもないだろう。

「都筑」
「…んー?って、わっ、なに?」

午後になってもいじられ続け、若干イライラし始めながらPCに向かっていると浩志の声と共にばさりとなにかを頭にかけられた。それを引き下ろし声の方を振り返る。

「…この後、外出で戻らねえから。夜、また連絡する」
「うん、分かった。今日は定時で上がるように調整するね」
「おお。あと、それ着とけ。じゃ、いってくる」
「あ、ありがと…。いってらっしゃい」

言われて改めて見てみると頭にかけられたのは冷房が苦手な浩志が会社に置いているグレーのパーカーだった。特になにも言ってこないなと思っていたが、私がいじられ続けげんなりしていたのに気付いてくれていたのか。

こういうのをちょっとした優しさ、と言うのだろうか。ありがたいとは思ってもきゅんとくるというのとはなんだか違う。本当に私は女子という生き物ではなくなってしまったのかもしれない。

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