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サイレントエモーショナルサマー
第12章 融解の兆し
「それ、暑くないですか」
「今日肌寒いしちょうどいいよ」
監視者が社外に出ている上に、朝から私とペアルックだと言われ続け、倉庫に現れた藤くんはいつにも増してご機嫌だ。
黙々と作業を続ける私の隣にぴたりとくっついて、時々顔を覗き込んでくる。
「あー俺も置きパーカー、グレーにしておけばよかったです」
「なんていうか、今日ほんと機嫌いいね」
もし、藤くんが通常モードだったら倉庫に入るなり私が着ている浩志のパーカーを脱がせにかかっただろうなと思う。
私の想像はさておき藤くんは楽しそうに、ふふんと笑って私の腰へと手を伸ばす。抱き寄せられると藤くんの匂いが広がった。
「…経、唱えてる?」
「唱えて欲しいですか」
「うん」
「5秒ください」
「ふふ。10秒でもいいよ」
目を閉じて待てば、藤くんの唇が触れる。この唇の痺れるような甘さを知っているのは社内で私だけなのだ、と思った。同時に、今までは胸を占めなかった妙な満足感が広がっていくのを感じる。
経を唱えるのがうまくいったのか、歯列を割って藤くんの舌が口内へと滑り込む。ぞくぞくして藤くんのシャツを掴んだ。舌同士が絡み合ってぴちゃりと音を立てる。
「ふっ…ん、」
「…その声はまずいです」
「勃つ?」
「勃ちます。はい、今日はもう終わり」
「もういいの?」
「……とりあえず、熱いのは」
言ってから、ぺろりと私の唇を舐めるのはずるい。社内でもキスがしたいと最初に我侭を言ったのは藤くんなのに今は私がねだっているというのもなんだかずるい。
「…志保さん、今日は?」
「あー、今日は君の監視者様と飲みに行く」
「俺も一緒に行っていいですか」
「私はいいけど…浩志に聞いてごらん」
「来るなっていうに決まってるじゃないですか」
「浩志はそんなに小さい男じゃないよ」
「最近、中原さん本気で恐いんで今日は遠慮します。うっかり中原さんとセックスしたらダメですよ」
「だからしないってば」
しつこいな、と藤くんのシャツの襟首を掴んで背伸びをする。流れるように口付けて綺麗な瞳を見つめる。