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サイレントエモーショナルサマー
第12章 融解の兆し
世の全ての男性がそうではないと分かっていながらも、恋愛的な好意を感じるとこの人は私とセックスをしたいのかと考えてしまって気味が悪くなる。
それならば、いい人のふりをして甘い言葉を吐く前にセックスしようと言ってくれればいい。嘘はもう沢山だ。気分が悪い。そうやって遠ざけてきた。
浩志はそういった類の優しい言葉は殆ど言わなかった。時折体調を気遣ってくれたりということもあれど、基本的に浩志の言葉には容赦がない。チカと喋っている時によく似ている。
もし、浩志にセックスを求められたら、と考える。
― なんか、嫌だな
浩志の指はどんな風に私に触れて、浩志はどんなキスをするのだろうと考えたことはちらほらあった。それでも、浩志が今までセックスをしてきた人たちと同じような感情を私に対して持っていたら嫌だな、と思う。それは、何故だ。
「ひでー女」
「…どういう意味?」
「聞くなよ」
悲しげな横顔はあまり見たことがなかった。無性にその頬に触れたくなって手を伸ばす。指先がそっと触れた。藤くんの頬は指が吸い付くみたいにしっとりと柔らかいけれど、浩志の頬は肉が薄くかさついている。
「恋愛なんかしたくねえっつうならこういうことするな」
私の指を掴んで頬から遠ざける。その指をカウンターに押し付けるようにしながらもう片方の手でビールを煽る。すみません、と店員を呼ぶ声はいつもの声だ。
「ごめん」
「お前は、色々ごちゃごちゃ考える癖がある。いいんだよ、適当で。楽なとこ居れば。飯食って、アイスひとつでにこにこしてればそれでいい」
やってきた店員に幾つか料理を注文すると、再度浩志は私の煙草の箱へ手を伸ばす。さては買ってくるのを忘れたな。
「…アイスはひとつじゃ足りないな」
「だったら2個食って腹下せ。笑ってやる」
煙を吐き出す顔を見ながら浩志とはこのままで居たいと強く思った。