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サイレントエモーショナルサマー
第12章 融解の兆し
「まず、お前が料理をしてるところを見たことがない」
「えー、ほら、前にうちに泊まった時目玉焼き作ったじゃない」
「あれは目玉焼きじゃねえよ。なんであんなぐちゃぐちゃになるんだよ」
「…勝手になるんだよ」
「ならねえ」
「あ、あれは?リゾット!リゾット作ったよね?」
「………あれをリゾットと呼ぶのはこの世でお前だけだ」
呆れを十二分に感じさせる溜息を吐いて、私の髪をぐしゃりと掻き撫でる。特に珍しいことではなかった。だが、今日はなにかが引っかかってじっと浩志の顔を見つめる。
「なんだよ」
「気にしないで。自分でもよく分からない」
「俺の顔になんかついてんのか」
「とりあえずパーツは揃ってる」
「はあ?」
仲は良い、と思う。浩志と一緒に居るのは本当に気が楽だ。触れられることも嫌ではない。ただ、この距離感が心地よいとは思うものの、キスをしたいとか抱き締めて欲しいとかそういう感情は浮かんでこない。
「気持ちわりーな。こっち見んな」
「酷いな」
浩志とのこの関係を疑問に思ったことは今まで一度もない。彼も私と同じようなことを考えているから私とつるんでいるのだろうと思う。
「ねえ、私が急に浩志のこと恋愛的な意味で好きって言ったらなんて答える?」
「……は?」
「もしもの話」
「あれだけ好きだのなんだのよく分からないって言ってたやつが急に言い出したら頭打ったんじゃねえかって疑う」
「だよね…」
「おい、まじで頭打ったのか」
「いや、まだ打ってない」
私は晶との生活を経て、好きだのなんだのという言葉はセックスをする為にある言葉なのだと思い込んでいた。男が優しいことを言うのは結果として私を従順にさせて、セックスをしたいからなのだと。