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サイレントエモーショナルサマー
第15章 glicine
綺麗だな、と思う。健康的に白い肌も、赤い唇も、耳の形さえも。綺麗だな、と思うのだが、これでもかと嫌な予感をかきたててくるのは私の昨日の行いが悪い所為だ。

「…ごめんね」
「俺もう張り裂けそうですよ」

それは胸かな?股間かな?なんて冗談を言っている場合ではないだろう。

「ご、ごめん…本当にごめんなさい…ちょっとアクシデントがあって、」
「…仕事ですか」
「うっ…」

昨晩、晶とホテルを出た頃にはすっかり日付が変わっていた。スマホを確認すると藤くんから何度か着信が入っており、申し訳なさいっぱいで一応は折り返しの連絡をいれたものの彼が電話に出ることはなかった。

朝一番で謝ろう。そう思って出社するなり藤くんに腕を掴まれ、給湯室に引きずり込まれた。そして、現在に至っている。

「いや、いいんですよ。俺まだ志保さんと付き合ってないですし。でも、昨日は俺のとこ来てくれる予定でしたよね」
「ごめん…あの、ほんと…なんとお詫びしたらよいか…」
「そうやってふわふわしてたら、俺、もう…」
「ごめん、やだ。もうしないとか言わないで」
「それは、セックスできなくなるのが嫌なんですか」
「そ、それもそうだけど…なんか、その藤くんの部屋行けなくなるの…嫌だ」

俺だけになってくれないならもう会わない、と言われれば、そうですか、さようなら、と切り捨てて来たではないか。なのに、藤くんが生きるあの空間に行けなくなるのは嫌だと思う自分が居る。

泣きそうになりながら言うと綺麗ながらも無言の圧を感じさせていた顔が変化する。ぱちぱちと瞬きをして、今度はにんまり。なんだ、どうした。首を傾げるとそのままぎゅっと抱き締められる。

「藤くん…?」
「もうちょっとですかね」
「え、なにが?」
「こっちの話です。次はすっぽかしナシですよ、ちゃんと連絡してください」

抱き締められながら、腕の中で必死にこくこくと頷く。いいこ、と後頭部を撫でる手が心地よい。もぞもぞと動いて、少し距離を取った。顔を見上げると背中に回っていた手が、つつ、と下から撫ぜていく。
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