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サイレントエモーショナルサマー
第15章 glicine
微睡む顔を見ているとチカの言葉が頭の中に甦ってくる。今年の夏は藤くんと過ごしてみたら、と言った時、チカはどんな顔をしていたか。

「藤くん…あのね、」
「なんですか?」

暫くして呼吸の整った藤くんは散々したのにキス魔になって飽きもせず、ちゅ、ちゅ、と頬や首筋に口付けながら私のお腹のあたりを撫でている。

「ちょっと…くすぐったい…」
「肌がキスして、って言ってるみたいなんですもん」
「やだ…またしたくなっちゃう…」
「流石にもう1回したら明日起きられませんよ」
「じゃ、キス辞めて」
「触るのは?」
「す、少しだけなら…」

寝返りを打って藤くんに背を向ける。腕枕のまま片腕でぐいと腰を引き寄せられると、うなじをぺろりと舐められた。くそう。こっちは言い出しづらくて気もそぞろだと言うのに。

「それは、ダメ」
「ちぇ」
「ね、藤くん…あのね、」
「さっきから何がそんなに言い出しづらいんですか」
「お、お願いと言うか…相談と言うか…」
「なんです?結婚してくれる気になりました?」
「えっ!?と、飛ぶね…ちがうよ」
「なんだ。違うんですか」
「違うってば…あ、あのさ、夏休みっていつ取る?」

私のお腹を撫でる手の上に自分の手を重ねながらぽつんと言うと、藤くんは今まで聞いたことのない奇声を上げて勢いよく起き上がった。驚き混じりにその顔を見ると眠たそうにしていたそれが青ざめている。

「え、なに?どうしたの?」
「やべ…俺、部長に早く決めろって言われてたんでした…もう手遅れですかね?貰えないですかね?」
「ふ、藤くんもまだ決めてなかったの…?」
「お前とあとひとりだ!って昨日どやされましたよ…って、志保さんもですか?」
「うん…今年ちょっとうっかり忘れてて…それで、あの、め、迷惑でなければなんだけど…」
「うわ、まじですか。え、どこにします?俺、どこでもいいですよ」
「迷惑じゃないの?」
「え?志保さん、夏休み俺と一緒に取ってくれるって話ですよね?なんでそれが迷惑になるんですか?」

なんとなく起き上がると、胡坐をかいた藤くんが手招きをする。這うように僅かにあった距離を詰めて、彼の足の上に納まる。
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