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サイレントエモーショナルサマー
第16章 falco pellegrino
ふわふわとしていて、心地よい。川沿いの長い散歩道を藤くんと手を繋いで歩いている。キスがしたくなって手を引くと、彼は、ん?と私の顔を覗き込んでキスをくれる。

こんなの、何年振りだろう。高校生の頃はしていたっけ。セックスはしなかったあの彼の名前は確かタクミくんだった。彼は、元気にしているかな。

そんなことが頭に浮かぶなんて変だな。ふ、と息を吐いて目を、開く。

「おはようございます」
「…!」

なんだ、夢か。眼前ににこりと微笑む藤くんの顔が迫っている。掠れる声で、おはよ、と言うと額にキスをしてベッドから出ていく。どうやら私が目覚めるのを待っていてくれたらしい。

「なんか食べます?ってパンしかないですけど。今、コーヒー淹れますね」
「あ、ああ、うん。ありがとう」

パンツ一枚でコーヒーを淹れるべくケトルに水を入れていく藤くんは物凄く眠たそうだ。無理もない。彼は昨日私よりも眠りにつくのが遅かった筈だ。のそのそと起き上がると鎖骨の下あたりの紅に視線が吸い寄せられる。

「げっ…!」
「ん?どうしました?」
「藤くん!これ!」
「ああ…、志保さんかわいかったんで付けちゃいました」
「付けちゃいました、じゃないよ!どうすんの!服着ても丸見えだよ…」

忘れていた。際どいどころかモロバレの位置に紅い華がいくつも咲いている。昨日の私のバカ!気持ちいいからなんだっていいとか思ってたな。

「見せつけましょう、中原さんに」
「……いやだ」
「言いましたよね?俺ね、志保さんが他の男とセックスしてることより、中原さんとの関係の方が気に入らないんですよ」
「浩志がこれ見ても相手藤くんだって思わないかもしれないよ」
「他の人は絶対いじるでしょ。そしたら俺ニヤニヤしますから。中原さんも勘付くんじゃないですか」

はい、とマグカップを私に差し出して、あたたかい指が痕をなぞる。口を結んで目を逸らす私の髪にキスをすると、遅刻しますよ、と浴室へ入っていく。こんなことになるならもっと首元の詰まった服を持ってくれば良かった。
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