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サイレントエモーショナルサマー
第16章 falco pellegrino

◇◆

暑い。暑くてたまらない。首元をくつろげて冷気を取りこんだらどれだけ快適だろう。そうは思うものの、実行には移さない。

「…サイズ、変だな」
「だよね」

そうでしょうとも。私が一番上までボタンを留めて着ているのは藤くんの長袖のシャツだ。袖を肘まで捲ってみても肩の位置は大いにずれているし、スカートにインした裾は尻の下まで到達している。でもって、いやだいやだと抵抗したのにもかかわらずシャツを貸す条件にと彼のパンツを穿いている。

藤くんは一体何枚パンツを持っているのだ。結局返しそびれたままのパンツがまだ私の家にたくさんある。

くそう、落ち着かない。浩志と並んで会議用の資料を纏めながらも藤くんが物凄くこっちを見ているような気がする。ああ、暑い、落ち着かない。今日はなんとしても定時に上がって自宅に戻りたい。暑い日にこんなことを考えたのはいつ以来だろう。

「これ、ミヤコちゃんに渡してくるね」

纏め上げたものを持ってミヤコちゃんのデスクへと向かった。声をかけて渡すと、それを受け取ったミヤコちゃんはにんまりと笑ってむき出しの私の手首を掴む。

「……な、なにかな」
「私、そのシャツ、見たことありますよ」
「あ、へ、へえ…そう…、よくあるデザインだよね、あはは」

気付かれたか。冷や汗が流れだすのを感じながらやんわりとミヤコちゃんの拘束を外す。別に悪いことをしている訳ではない。私たちは合意の上でセックスをしている。だからといって会社の人間に藤くんとセックスをしていると知られるのはやはり避けたい。

「それ、もう私はお役御免になったって判断していいんですかね?」
「ん?ちょっと意味が…」
「藤に聞いてみてください」

バレている。バレてるよ、藤くん。ここで藤くんに視線を送ろうものなら今度こそ白状する真似になる訳で、頬をかきつつにっこり笑顔のミヤコちゃんから距離を取る。仕事戻るね、じゃあね、とおざなりなことを言って自分のデスクへと戻った。
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