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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
検討します、という返答は実に使い勝手が良い。とりあえずその場ではイエスともノーとも言わずに済む訳だ。その後、相手に会うことさえなければいっそ検討そのものなどしなくとも良いだろう。

私はなんとか眠ることが出来たようで、次に気が付いた時には外が明るくなっていた。寝相の悪い隼人に蹴り飛ばされることもなく、奇跡的に彼の腕は私の腰をホールドしたままであった。

私が目覚めてから数分後には隼人も目覚め、朝勃ちそのまま挿入して顔にかけたいと言われたのでそんなことしたら拘束を外した瞬間お前の局部に噛みつくぞと脅して大人しくさせた。

朝勃ちの処理は諦めたが、隼人は付き合おうと言ったのは撤回しないとごねた。一度冷静になれと言ったものの、一晩経ってもやっぱり私の顔にかけたいから自分は私に恋をしていると言う。

そんな馬鹿な話があるか。私は確かに恋愛感情に自信がないが、顔にかけたい=恋だなんて乱暴な理屈は聞いたことがない。

結局、早く腕の拘束を外して欲しかったこともあり、検討すると言って解放してもらったのである。

「……夏って人の気を惑わせるのかな」
『待って。ほんと、朝からお腹よじれそうなんだけど。なんなの、あんた、最高に面白い』
「面白くないよ、こっちは必死だよ」

家に居るのが憚られ、念入りにシャワーを浴びて身支度を整えるなり、さっさと自宅を飛び出した。ちなみに今日の服はキスマークが見えないように首元の詰まった白いブラウスとコバルトブルーのフレアスカートを選んだ。足元はお気に入りのヒールの高いサンダルだ。浩志と待ち合わせている街で寂れた喫茶店に落ち着き、チカに電話をかけた。昨晩のことを話していると電話の向こうの声はみるみる笑いに震えだし、最終的に盛大に笑い飛ばす声が耳を突き刺す。

「もうさ、益々家帰りたくないよね。隣に危険な奴が住んでるんだよ、こいつなんか性癖合うし近いしってお手軽に使ってた自分を叱りたい」
『その前に藤くんと付き合ってるようなもんなのに他の男とヤってる自分を責めなよ』
「でもさ、藤くんにオイタはダメですって言われて、そうだよねダメだよねって思ったけどやっぱりまだ形式的にはセフレな訳だしさ、他の人とセックスしてもいいと思わない?」
『あんた藤くんにさよならされたらどうすんの?』
「…そしたらその時考える」
『嫌じゃないの?』
「どちらかというと嫌だね」
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