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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
すっかりさっぱり忘れかけていたパンツ返還の儀は今朝、滞りなく終わった。私が自宅で洗濯した彼のパンツたちを返すと、志保さんの匂いがするとアホなことを言って朝から一発かましそうな雰囲気になったので経典を唱えさせた。
藤くんは朝からというか私が目覚めた瞬間からご機嫌で、今にも宙に浮いてどこかに飛んで行ってしまいそうだ。時間差なく家を出たのは初めてだった。最寄駅までの道を手を繋いで歩きたいと言われたから、いいよと答える前に彼の手を取った。新婚みたいですね、と無邪気に笑う顔をみると、つい、私も笑った。
「あいつは一体なにがあったんだ」
浩志の視線の先には勿論、上機嫌の藤くんの姿がある。昼休憩が終わった頃に部長の差し入れの茶葉をみなで楽しもうということになり、彼はじゃんけんで負けて部員たちにお茶を淹れて配って回っているのだが、いつも以上ににこにこしている。
「い、いいことでもあったんじゃないかな」
「そのまま機嫌よく真面目に仕事してくれりゃ別に言うことねえけどさ。ま、あいつ要領良いからな」
「お、浩志が藤くんのこと褒めてる。珍しい」
「要領の良さは認めてるってだけだ」
溜息に似たなにかを吐いて仕事を続ける浩志の横顔を見ている内に、お盆片手の藤くんがこちらへとやってくる。
「はい、志保さん、中原さん。熱いのでお気をつけて」
「ありがとう」
「…ありがとな。あ、お前、ちゃんと都筑の買い出し手伝ってやれよ、迷惑かけんなよ」
「あ!暑気払い。そうだ、打ち合わせしましょう。会議室空いてますかね。行きましょ」
「おい、待て。なんでそんなもんで会議室が必要なんだ。ここでやれ、ここで」
にこにこと湯飲みをデスクに置いてくれた藤くんに浩志が苦言を呈すと、アイドルの微笑みは夜を感じさせる悪魔の顔になった。う、とたじろぐ私に浩志は眉間に深い皺を刻んで私を会議室に連れて行こうとする藤くんの腕を掴む。
「いやいや、中原さんの仕事の邪魔できませんから。4号空いてるみたいなんでそっち行きますんで」
「てめえ、俺が煽ったこと根に持ってんのか」
「まさか」
藤くんは朝からというか私が目覚めた瞬間からご機嫌で、今にも宙に浮いてどこかに飛んで行ってしまいそうだ。時間差なく家を出たのは初めてだった。最寄駅までの道を手を繋いで歩きたいと言われたから、いいよと答える前に彼の手を取った。新婚みたいですね、と無邪気に笑う顔をみると、つい、私も笑った。
「あいつは一体なにがあったんだ」
浩志の視線の先には勿論、上機嫌の藤くんの姿がある。昼休憩が終わった頃に部長の差し入れの茶葉をみなで楽しもうということになり、彼はじゃんけんで負けて部員たちにお茶を淹れて配って回っているのだが、いつも以上ににこにこしている。
「い、いいことでもあったんじゃないかな」
「そのまま機嫌よく真面目に仕事してくれりゃ別に言うことねえけどさ。ま、あいつ要領良いからな」
「お、浩志が藤くんのこと褒めてる。珍しい」
「要領の良さは認めてるってだけだ」
溜息に似たなにかを吐いて仕事を続ける浩志の横顔を見ている内に、お盆片手の藤くんがこちらへとやってくる。
「はい、志保さん、中原さん。熱いのでお気をつけて」
「ありがとう」
「…ありがとな。あ、お前、ちゃんと都筑の買い出し手伝ってやれよ、迷惑かけんなよ」
「あ!暑気払い。そうだ、打ち合わせしましょう。会議室空いてますかね。行きましょ」
「おい、待て。なんでそんなもんで会議室が必要なんだ。ここでやれ、ここで」
にこにこと湯飲みをデスクに置いてくれた藤くんに浩志が苦言を呈すと、アイドルの微笑みは夜を感じさせる悪魔の顔になった。う、とたじろぐ私に浩志は眉間に深い皺を刻んで私を会議室に連れて行こうとする藤くんの腕を掴む。
「いやいや、中原さんの仕事の邪魔できませんから。4号空いてるみたいなんでそっち行きますんで」
「てめえ、俺が煽ったこと根に持ってんのか」
「まさか」