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サイレントエモーショナルサマー
第20章 voce
事件だ。この2日、藤くんが手を出してこないどころか倉庫で作業をしていても姿を見せない。2日とも業務後に暑気払いの小物の買い出しに付き合ってくれたが、その時だってどれだけ飲まされるのかと嘆くくらいで関係はただの同じ会社の人くらいまで後退していた。

彼の自宅に戻ってみれば私を抱き締めはするくせにキスは挨拶程度にしかしてくれない。物足りなさで藤くんの下唇を甘く噛むと、曖昧に笑って私を遠ざける。ベッドで一緒に眠りについても藤くんは私が寝付くまで起きているようだが、セックスには至らない。たった2日だ。セックスをしていないのはたった2日だというのに今の私の心情はセックスレスになって年単位の女性のものに等しい。

「…お前は藤に何か恨みでも出来たのか」

むーっと藤くんを見ていると浩志の声がした。顔を上げればアイスコーヒーのカップを2つ持って立っている。午前から社外業務に出ていて今しがた戻って来た所らしい。

「私、そんなに藤くんのこと見てた?」
「恨みがましい目で見てる。呪われそうだ」

差し出されたカップを受け取ってストローを刺した。呪われそうとは失礼な。憮然としながらアイスコーヒーを一口。藤くんが私に手を出してくれないの、と浩志にいう訳にもいかず、咥えたストローを噛んだ。

「出た。お前のそれストレス溜まってるサイン。辞めろよ、今日飲み過ぎんなよ」

惜しい。私がストローを噛むのは満足いくセックスをしたい時だ。ずずっと音を立てて残りのコーヒーを一気に飲み干した。ごちそうさま、と告げてカップをゴミ箱に放り込む。

普段倉庫にこもり始める時間よりも早かったが今日は暑気払いの準備で16時以降を自由に使わせてもらえることになっている。大方仕事は片付いていたのでバインダーを手に立ち上がった。

私がフロアから出ていく姿は見ていただろうにやはり藤くんは倉庫に姿を見せなった。

― キス、したいのに

作業を終えて戻ってみて、私は困った。部長の許可の元、藤くんに手伝って貰えることになっているが、なんとも声をかけづらい。業務の一環だ。普通に声をかけて、連れ出せば良いだけなのに。
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