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サイレントエモーショナルサマー
第20章 voce
料理は17時過ぎに届くことになっている。酒とジュースは調達してあるし、後はお菓子や氷と、部長のお気に入りのカツサンドを買いに行くだけだ。いざ暑気払いが始まれば乾杯だけはみんなでして、仕事を続けながら飲む者もいるし、飲み食いに没頭する者もいる。

声をかけられぬまま再びフロアを抜け出し、エレベーターホールへ向かった。なんだよ、もう。藤くんはなにを考えているのだ。しないの?と聞く私に、ゆっくり休みましょうと言うだけでなにも言ってくれない。

― 狩りにでてやるんだから

そうは思いつつもどこぞの男とセックスをして藤くんの家に戻るような真似はしたくなかった。ち、と舌を打ったと同時にエレベーターが到着し、すかさず乗り込んだ。

「なんで声かけてくれないんですか」
「…!」

閉りかけたドアを大きな手が制した。慌てて『開』のボタンを押すと呆れ顔の藤くんが中へ乗り込んでくる。

「一人で行く気でしたよね。俺、ちゃんと仕事片付けて声かけてくれるの待ってたのに」
「……お、重いものないし」

なんて可愛げのない受け答えだ。自分が情けなくて仕方がない。俯いて視線を逃がすと藤くんが溜息を吐いたのが分かった。私だって吐きたい。軽快な音と共にエレベーターが一階へと到着する。並んで会社を出ても特に会話が思いつかない。

もし、通常モードの藤くんなら、手を繋ぎたいと言っただろう。でもって私は会社の近くだからダメだよと言ったに違いない。そんな素振りなど微塵もなく黙って歩き続けているのは実に苦しい。

どうした、自分。どうした、都筑志保。お前は新しくなったんじゃなかったのか。たった2日セックスしていないだけで藤くんとなにを話したらよいのか分からないなんて不甲斐ないにも程がある。

なんとか沈黙を突き破ろうと口を開こうとすると背後から衝撃があった。短い悲鳴を上げれば太い腕が腰へ巻きつく。
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