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サイレントエモーショナルサマー
第22章 gelosia
ベッドの中でじゃれ合って、どんなおじいちゃんになりたい?と聞いた私に、藤くんは志保さんの隣に居られるおじいちゃんになりたいと言った。重ねて、じゃあ私はどんなおばあちゃんになると思う?と問うと、志保さんはきっとかっこいいおばあちゃんになりますよ、と笑った。
その顔を見ながら胸の底から込みあげてきた言葉は藤くんに伝えることが出来なかった。
◇◆
過去との決別だ!生まれ変わるぞ!と言ったところで実行に移すのは自分の想像よりもうんと難しかったりする。
気持ちの上では新生・都筑志保だ!なんて思いながらも結局私はまごまごして、好きってなんだ、恋愛ってなんだ、と二の足を踏んで藤くんとキスをしてセックスをしてと相変わらずな日々を過ごし、1週間を終えようとしている。
藤くんとは特に夏休みをどう過ごそうなどと話さないまま夏季休暇が明日からに迫っていた。私は特に予定を入れない人間だが、藤くんはそうもいかないだろう。それとも私のライフスタイルに合わせて気ままに過ごしてくれるつもりなのだろうか。
夏季休暇中の過ごし方に思いを馳せながら、休み前にこれまでなら避けて来たことをやってみようと考えて私はさっきからコピー機の前のミヤコちゃんに声をかけようと思い悩んでる。だが、どうにもこうにも最初の一言が上手く出てこない。
「どうしたんですか?隣、空いてますよ」
「あ、えっと…コピーではなく、ですね」
明らかに挙動不審の私に気付いて振り返ったミヤコちゃんは小首を傾げた。うん、今日もピンクのチークとゆるふわカールの茶髪が愛らしい。
「あ、あのさ、もし迷惑じゃなければ今日、ランチ行かない?」
よし、言ったぞ。ほっと胸を撫で下ろす。ランチに行こうと誘うことは本来ならここまで言いづらいことではないだろう。だが、私は入社後3か月くらいしてからは殆ど浩志と食事に出るか、デスク飯しかしていなかった。
要はずっと楽なところに逃げ続けていたのだ。逃げ癖がついていた所為でミヤコちゃんに声をかけるまでに数日使ってしまい、金曜の今日になってやっと声をかけることが出来た。