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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
現状、なんやかんや言いながら私は藤くんに大いに甘えている。
夏季休暇初日。土曜の11時。今、彼は私が盛大に焦がしたホットケーキの黒い部分をこそぎながら器用に食べ進めている。ふたりでスーパーへ行って美味しそうだと話しながら購入したレモンのジャムは確かに美味しかったが、焦げ臭さがその旨みを半減させているだろう。
「…無理して食べなくていいよ。本当にごめんね」
「志保さんが作ってくれたってだけで今まで食べたホットケーキより格段に美味いです」
満面の笑みを返され、閉口する。正直言って黒い部分を切っても焦げ臭くて美味しくないのに、藤くんは凄い。
「本気で料理教室通おうかな」
「今まで通おうと思ったことなかったんですか?」
「昔、体験教室みたいなの行ったんだけど場の空気に馴染めなくて辞めた」
大学に入り、一人暮らしを始めてすぐの頃、当時親しくなった同窓生と行ってみたのだが、大匙だの小匙だのが面倒だったのと奥様方のテンションが窮屈で体験したきり本格的に通うことはなかった。
チカが隣で見ていてくれればなんとか食べられるものが出来上がるのだが、一人になった途端、料理とは名ばかりのなにかが出来上がる。
浩志は私が作った目玉焼きを、卵の残酷焼きだと笑った。確か、リゾットは苦くて食えたもんじゃねえ、とも言っていた。
あの時の浩志の顔がぱっと頭の中に浮かんできて、思わず頭を振ってそれを追い出した。出てくるな。今朝、電話をしても彼は出やしなかった。それに送ったメッセージだって読んだのかすら分からない。
「いいですね、暫く休みって。しかも志保さんが家に居る夏休みってのは凄く良いです」
「……ご迷惑をおかけしております」
藤くんは私とセックスをしているのも好きだが、ただこうやってぼんやりと一緒に居るのも好きだと言う。ソファーで並んで座って、時折キスをしながらテレビを見る時間が好きらしい。
食後のコーヒーを淹れる為に立ち上がる。安いドリップコーヒーでも私が淹れた方が美味しいと彼が言ってからコーヒーを淹れるのは私の担当になった。
湯を沸かし始めるとテレビの音が聞こえてくる。旅番組にチャンネルが合わさっているようだ。
夏季休暇初日。土曜の11時。今、彼は私が盛大に焦がしたホットケーキの黒い部分をこそぎながら器用に食べ進めている。ふたりでスーパーへ行って美味しそうだと話しながら購入したレモンのジャムは確かに美味しかったが、焦げ臭さがその旨みを半減させているだろう。
「…無理して食べなくていいよ。本当にごめんね」
「志保さんが作ってくれたってだけで今まで食べたホットケーキより格段に美味いです」
満面の笑みを返され、閉口する。正直言って黒い部分を切っても焦げ臭くて美味しくないのに、藤くんは凄い。
「本気で料理教室通おうかな」
「今まで通おうと思ったことなかったんですか?」
「昔、体験教室みたいなの行ったんだけど場の空気に馴染めなくて辞めた」
大学に入り、一人暮らしを始めてすぐの頃、当時親しくなった同窓生と行ってみたのだが、大匙だの小匙だのが面倒だったのと奥様方のテンションが窮屈で体験したきり本格的に通うことはなかった。
チカが隣で見ていてくれればなんとか食べられるものが出来上がるのだが、一人になった途端、料理とは名ばかりのなにかが出来上がる。
浩志は私が作った目玉焼きを、卵の残酷焼きだと笑った。確か、リゾットは苦くて食えたもんじゃねえ、とも言っていた。
あの時の浩志の顔がぱっと頭の中に浮かんできて、思わず頭を振ってそれを追い出した。出てくるな。今朝、電話をしても彼は出やしなかった。それに送ったメッセージだって読んだのかすら分からない。
「いいですね、暫く休みって。しかも志保さんが家に居る夏休みってのは凄く良いです」
「……ご迷惑をおかけしております」
藤くんは私とセックスをしているのも好きだが、ただこうやってぼんやりと一緒に居るのも好きだと言う。ソファーで並んで座って、時折キスをしながらテレビを見る時間が好きらしい。
食後のコーヒーを淹れる為に立ち上がる。安いドリップコーヒーでも私が淹れた方が美味しいと彼が言ってからコーヒーを淹れるのは私の担当になった。
湯を沸かし始めるとテレビの音が聞こえてくる。旅番組にチャンネルが合わさっているようだ。