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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「ごめん…あった…えっと、」
「いいよ。なにも言わなくて。俺もなんか、その、悪かった。でも、忘れたりなんかすんじゃねえぞ」
「…うん」
「都筑、」
「はい」
「最後に、抱き締めていいか」
「……うん」
最後、か。やはり私は浩志の考えていることが分かってしまったらしい。どうにか微笑んだつもりだったが、上手く笑えたかは分からなかった。
壊れ物に触れるように浩志の手が私の腕に触れた。ゆっくりと、ぎこちなく、抱き締められる。心臓の音がどきどきと煩いのは浩志のものか、私のものか。
「……帰る。休み、楽しめよ。飲み過ぎるなよ」
「うん…」
じれったく、指先が後を引きながら浩志は離れていき、私に背中を向けた。玄関のドアが閉まる音で足から力が抜け、その場に座り込む。
息を吐くと、治まった筈の涙がぽろぽろと零れ落ちてくる。ごめん、浩志、ごめんね。彼の去った部屋の中で泣きながら何度も繰り返す。
愛されていたのだ。私は気付かぬままずっと浩志の愛情で見守られていたのだ。あんなに一緒にいたのに、あんなに近くにいたのに。
築き上げてきたものが崩れたことを嘆き、私は静まり返った自宅マンションで、ただただ、泣いた。