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サイレントエモーショナルサマー
第24章 guarigione
「セックスしたい」
「ダメ。今日は志保さんの体調のこともありますし、脇の甘かった志保さんへのお仕置きでもあるんで」
「なにぃ…」

道理で過剰なまでに優しかった訳だ。独占欲むき出しの藤くんが土下座と泣き腫らした目だけで勘弁してくれる筈がなかった。藤くんはなんだかんだSっ気が強い。

「私がセックスしないと眠れないって言ったらどうする?」
「眠るまで子守唄うたいます」
「…藤くん結構歌下手だよ。鼻歌もたまに音程ずれてるし」
「誰にだって欠点のひとつやふたつあるでしょう。志保さんだってホットケーキすら丸焦げにするじゃないですか」
「うっ……痛いところを…」

あの焦げ臭いホットケーキを美味しいって食べてたじゃないか。浩志は私が作ったリゾットを苦いと言って一口しか食べなかったぞ。

「……藤くんが寝てる間に襲ってやる」
「それはそれでくっそ興奮しますけど、本気でそれするつもりなら手縛りますよ」
「ごめんなさい、しません」
「はい、今の約束ですからね。破ったらお仕置きです」
「…くそう」

藤くんはSっ気が強い。それにすぐ策を練る。セックスしない以外のお仕置きがなにかと思うとつい興奮してしまいそうになる。

私はセックスの最中に噛まれたり、抓られたりするのが好きだ。だが、ドМかと問われるとそこまでではないと思う。やたらと命令口調であれこれ言われると、なんでお前に従わなきゃならないんだよ、と苛々したりする。藤くんはその辺の匙加減が抜群にうまい。

長い長い、玄関での立ち話を終えて居室に戻る。明るくなった室内。時計を見れば22時を少し過ぎていた。

藤くんがコンビニで調達してきてくれた夕食をふたりで食べて、あれやこれやと話しながらボストンバッグに荷物を詰め込んでいった。

旅行の前の浮き足立った気持ちはこんな感じだったか。なんとなしに、楽しみ、と言うと藤くんは心底ほっとしたように、良かった、と言った。
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