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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
地獄絵図よりはマシだと思い、詳しく聞くと今朝も早くから起きて釣りに出たが結果は芳しくなかったらしい。この船から降りた後は帰路に着くと言う。
そこから数分経って、船を降りた。晶は別れ際、藤くんで満足できなくなったらいつでも泣かせてやる、と気味の悪いことを言って三井さんに肩を叩かれながら去っていった。
私と藤くんは島内の小さな水族館へ行って、ぼんやりとマンボウやらペンギンやらを眺めた。17時の閉館とともに水族館を出て、島民で賑わう居酒屋で夕食を取ることにした。
今、目の前の藤くんは完全にノーセックスモードでがぶがぶビールを飲んでいる。
「…藤くんもビール腹とかになるのかな」
「これだけ飲んで運動してなければなるでしょうね」
「今、全くしてないよね」
「してないですね。志保さんとのセックス以外は」
「……あれは運動ではありません」
「でも結構筋肉使いません?」
「まあ、使うか…間があくと筋肉痛っぽくなるし」
白身魚の刺身を食べながらレモンサワーをちびちびと飲む。私とこうなる前の藤くんは時間があけばジムに行ったり、週末は学生時代の仲間とフットサルやらなにやらに繰り出していたらしい。
行ってきてもいいんだよ、と言うと今は私が傍に居るから行きたくないと言った。私が彼とちゃんと関係をはっきりさせたら週末のフットサルの場に自分の大切な人だと連れていきたいとも。
藤くんはちゃんと分かっている。今の関係が危ういものであると。忘れかけているのは私の方だ。彼に甘えて、目が覚めれば彼が隣にいることや、彼と手を繋いだりキスをしたり、セックスしたりを当たり前のことのように思い始めている。
一言、私が言えば、終わりもするし、続きもする。もし、私がずっとこのままがいいなんてずるいことを言ったら藤くんはなんと言うだろう。
そんなことを考えながらも、自分がそうは言わない自信があった。彼は私にぶつかってきてくれている。私も、悩んで、苦しんで、いつか答えを出すのだろう。それは夏の間か、夏が終わってからなのか。