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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
船内に戻ってからは2階の客席に落ち着いた。おばちゃんがくれた小さなクッキーを食べて、もうすぐ戻るんだね、なんて話していると晶と三井さんがなぜか私たちが座っている席のすぐ近くに座る。
「晶さん…フラれたからって悪あがきはダサイですよ。僕はちゃんと綺麗に引きましたよ」
「フラれてねえよ。俺がこの女見限ったんだよ」
「いや、さっき俺はあいつに敵わないって言ってたじゃないですか」
「言ってねえ」
「……どっか行ってくれませんかね」
そっと藤くんの顔を見ると彼にとってもう晶も三井さんも敵ではない認識なのか余裕の構えである。頬杖をついてにやにやしている。
晶は晶でどうやら三井さんに私に関することをなにか言ったらしい。どうせこいつのことだからお前が諦めたなら俺は手出すとかそんなようなことを言ったのだろう。
「……おい、パンツ野郎」
「いや、だからあんた藤くんのことパンツ野郎とかいうの辞めてよ」
「うるせえ志保は黙ってろ。お前、この女泣かすなよ」
「広い意味で捉えるとそれは無理ですね。ほぼ毎晩泣かせてるんで」
「…!ちょっと、藤くん?」
慌てて藤くんの口を塞ごうと手を伸ばせばあっさり捉えられ、ぺろりと手のひらを舐められる。ん、と声をあげると赤面したのは私ではなく三井さんだった。
晶が舌を打つ。藤くんはにやにや笑っている。三井さんは気まずそうだ。私はどっちかというと三井さんよりの反応である。地獄絵図。私の周りの人たちは中々私をシリアスモードに置いておいてはくれない。
「あ、えっと…ふたりは…なんで男同士でこんなとこに?で、デート的な」
「辞めてくださいよ。たまたま有給が被って…クロソイが釣れるらしいからって釣り旅行に来ただけです」
なんとか話題を変えようと言うと、気まずそうに顔を逸らしていた三井さんの顔にげんなりといった色が浮かぶ。そう言えば彼らは釣り仲間だったか。