この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia
私は今の会社が好きだ。入社して3年目。様々な仕事を覚え、昨年あたりから他の社員のカバー役のようになり残業することも多いが、今の会社は居心地が良い。
入社当時から与えられた倉庫番の任も、面倒だとは思うものの藤くんが乗り込んでくるようになってから邪な理由でその時間は少し待ち遠しくなった。
長期休み明けと言うのは出社が憂鬱になる人も多いだろう。今までの私であればそうは思わなかった。会社に行けば浩志が居て、業務後には飲みにいったり、ハンティングに行ったりと悠々と日常に戻っていった。
今年は訳が違う。恐らく月曜の朝というやつをこんなにも憂鬱に感じたのは入社以来初だ。
「……俺、まじで会社行きたくないです」
藤くんも同じことを考えているらしい。朝食のトーストをもごもごと咀嚼しながら浮かない顔だ。理由は明確。私と浩志の関係性の変化が不安なのだろう。私も一緒だ。
「さぼっちゃう?」
「志保さんの口からその言葉が出てくる日が来るとは…」
私だって意外だと思っている。浩志と会って話がしたいと思いながら、彼に会うのが恐かった。吐き出しそうになった溜息を押し戻すように温くなったコーヒーを啜る。
昨年までは無駄に長いと感じていた夏季休暇も今年は長いようで短かった。藤くんが一緒に居てくれたおかげだろう。墓参りからの帰り道、色々してもらうばかりでごめん、と言った私に彼は見返りなど求めていないと言ったが、私は彼になにかを返したかった。
私が真面目に、なにかしてあげられることないかな、と言ったのに藤くんはにっこり悪魔の顔で、猫のコスプレをしてくれと言った。それはとりあえず、無言でスルーした。
「……結局昨日志保さん猫プレイしてくれなかったし」
「墓参りから帰ってきて猫プレイが出来るほど上手く気持ちを切り替えられる女ではありません」
「今日、帰りにコスプレ買いに行きましょうよ。それなら俺、会社行く気になります」
行かねーよ。そもそも猫プレイってなんだ。コーヒーで押し戻した溜息が出てきてしまったじゃないか。遅刻するよ、と声をかけて空いた食器を手に立ち上がる。