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第29章 accelerazione

「志保は浩志との仲についてどうこう言われるの嫌みたいだったから触れなかったけど、私は志保の話聞きながらいつか浩志があんたの心溶かしてくれるのかなって期待してた。ま、そこに予想外の形で藤くんが現れたけどね。私からしたらどっちだって良い」
「どっちだって良いんすか…」
「どっちだって良いよ。見て、分かったもの。あ、この人たちはちゃんと志保を大事にしてくれるって、ちゃんと志保を愛してくれるって。志保、恐くないよ、大丈夫」

グラスを持っていた所為か、冷えたチカの手が私の手に被さった。うん、と小さく答えて口を噤む。

「恐れるな。喜べ。あんないい男がふたり揃ってあんたのこと愛してんだよ。凄いじゃん、ポンコツのくせに」
「もうね、自分がポンコツ過ぎて情けない」
「ほんとだよ。ほんと、贅沢な悩み。でも、もっと悩みな。今までして来なかった分、答えを出すのにもっともっと時間がかかるかもしれない。でも、あのふたりはちゃんと待ってくれるし、あんたが真剣に悩んで出した答えならきっと理解してくれる。私はそう感じたよ。とりあえず、今日は好きって自覚出来たことを祝って飲もう」
「ち、チカ様…私、明日朝会あるからほどほどで頼みます」

了解、とチカは笑ったが、途中コンビニに酒を調達に行かされ、結局日付が変わる頃まで飲み続けた。

顔を真っ赤にして私を抱き締めて、良かったね、とチカは静かに泣いた。その涙は美しかった。