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サイレントエモーショナルサマー
第4章 日曜日は苦みを少し
「忘れられないなら忘れなくていい。隅っこに置いといて目の前の楽しいことに目を向けるの。そしたらその内、胸の中から消えてくよ」
酔うとチカは脈絡もくそもなく必ず言う。私が囚われている所為だ。チカはなにも悪くない。あの頃、私を支えてくれた。今でも夢に見て、あの人にさえ出会わなければと消えぬ亡霊を恨むこともある。だが、あの人だけが悪かと言えば決してそんなことはなかった。寂しさを理由に正常な判断能力を失った私も愚かだったのだ。
過去をこねくり回したまま、だらだらとどうしようもない生活をしていたらいつかチカに見放されるかもしれない。それは、とても恐い。だが、恋をする理由がチカにあるのは違う気がする。彼女を失望させない為だけにする恋は誰のことも幸福にはしてくれない。
「じゃ、やっぱり藤くんと楽しくセックスしとくかな」
「ぶっ飛ばすよ」
「ごめんなさい、冗談です」
「…って言っても変な男に引っかかるくらいならそのイケメンくんと遊んでてくれた方が安心だわ。ギリギリね」
冗談を言わなければ泣いてしまいそうだったから軽口を叩いた。私を抱き締めていたチカは険しい顔をしてから私の髪をぐしゃぐしゃにする。
「さっきは努力しろって言ったけど、無理しなくていいから藤くんの良いところもちゃんと探してあげな」
うん、と答えるとチカは、じゃあ潰れよっか、と3本目にのワインに手をかける。白を2本開けた後の赤ワイン。あろうことか煤けたラベルのそれは大して酒の味も分からない私達が飲むには勿体ない、生まれ年のシャトー・ポタンサックだった。