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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
二日酔いで頭が痛い。呼気が酒臭くないことが不幸中の幸いだ。これで自分の吐く息までも酒臭かったら再び酔ってしまったかもしれない。
昨日、チカは酔った私を引きずってベッドに寝かせると同じ量を飲んでいたとは思えない調子で一言、二言、苦言を呈して軽やかに帰っていった。顔は真っ赤なままだった。
シャワーを浴びると幾らかしゃきっとしたけれど、やはりまだ鈍く痛む。月曜の朝とは思えぬコンディションでの満員電車はしんどい。乗車時間が短くて良かった。会社に入る前にふるりとかぶりをふって、表情を引き締める。
「おはよう」
「…おう。金曜、悪かったな」
「ううん。てか、支払い浩志がしてくれたんだよね?ご馳走様。部長の呼び出し大丈夫だった?」
「すげーよ、あの人。しこたま飲まされて最終的にフィリピンパブに連行された」
「わお、刺激的」
始業に合わせてデスクでなにか作業をしていた浩志の顔は金曜を振り返るうちにげんなりと青ざめていく。はは、と笑って席につきPCを立ち上げた。ざっと社内メールに目を通していくと脳裏に不埒な単語がよぎる。なんだ。私はなにかを忘れている。
「おはようございます」
「藤くん!おはよー!」
フロアの入り口から聞こえてくるふたり分の声に顔を上げた。あ、と声を漏らすと女子社員と挨拶を交わしていた藤くんがこちらを向く。そうだ、あいつだ!不思議そうな顔の浩志はさておき、座ったばかりだと言うのに席を立つ。勢いがついていた所為で腰に痛みが走る。