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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
「志保さん、おはようございます」
「おはよう。ちょっと、いいかな」
近寄る私に気付いた藤くんは大仰に両腕を開いて私を待ち受ける。そんな彼の腕を掴み、廊下の給湯室へ連行。擦れ違う同僚たちはまた藤くんがなにかをして私を怒らせたのかと笑いながら去っていく。
そんな声は大人しく私に腕を引かれる藤くんに優越感を与えたらしい。ふっと小さく笑った声がそれを感じさせる。
「…足、どうですか?まだ痛みます?」
給湯室に押し込んで向かい合った。にこにこと微笑んで太腿の付け根に触れようとする手を叩く。ちぇ、と口を尖らせる顔は今までとなにも変わらない。無邪気に好きですとのたまっていた部のアイドルのままの顔だ。
「……写真、撮ったって言ってたでしょ」
「写真?ああ、ハメ撮りですか?」
「ちょっと…!声が大きい。そう、それ、お願いだから消して」
ぎょっとして手を伸ばし、口を塞ごうとするとそのまま捉えられ手のひらをぺろりと舐められた。短く悲鳴を上げればアイドルの顔はにやにや笑いの悪魔の顔になる。
「撮ってませんよ、あの時はそう言った方が効くかなって思っただけで。俺は志保さんのこと困らせたいわけじゃないんで」
「……本当に?」
「本当です。疑うなら確認してください」
はい、とデータフォルダを開いたスマホが渡される。ちらちらと藤くんの顔を見ながらその中を改めていくと確かにあられもない写真は一枚もない。データを移した可能性もあるがとりあえずは信じておこう。今、この場でそんな嘘を吐いても彼にメリットはないと思う。スマホを見る私を後ろから抱き締めようとしてきたので肘鉄をプレゼントしてあげた。
「…ん、これは?」
ふと一枚のサムネイルに気付いて指を止める。タップすると拡大されたそれは、ほんの2か月前の夜を思い出させる。肘がいいところに決まったのか腹を擦っていた藤くんが途端に慌てた声を出す。