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冷血な獣
第15章 黒い渦
* * *
「妃南、行くな……頼む。行かないでくれ……」
翌朝、ベッドの上であり得ない光景を目にしてしまった。
携帯のアラームで先に起き、隣で寝ている龍河さんへ視線を向けると。
枕に抱きついた格好で、龍河さんが寝言を言っていた。
「……えっ?」
何だろう。このイケメンの残念感。見なかったことにしよう……。
そのままベッドから下りて、朝食の準備をする為にキッチンへ向かう。
龍河さんは今日から仕事だからお弁当も作らないと……。
でも、その前に着替えなきゃ。昨晩は抱き合った後、裸のまま寝てしまったから。
「ふあっ……」
欠伸をしながら、ベッドの傍らに落ちている下着を拾って着替え始める。
そしてTシャツに頭を通そうとして、唐突に後ろから注がれる視線に気付くと。
無言で手を止め、そうっと振り返った。
「着るのか?」
そこにはいつの間にか起きて、ベッドに座っている龍河さんの姿。
起きているだけなら良いけど、黙って着替えを見ていたんだと思うと。
無性に恥ずかしくなり、顔に冷や汗をかく。
「……龍河さん、起きてたんですか?」
「ああ。おはよう」
「おはようございます……」
起きていたなら声を掛けてくれたら良いのに。
挨拶を返しながら、少し不満に思った。しかし。
「するか?」
真剣な顔で龍河さんからそう質問されると、一瞬で不満など消えてしまう。
その代わり口から出たのは、素直な返事。
「はい……」
もう、龍河さんとしか付き合えない気がする。
万が一、また別れる事になっても。絶対龍河さんが良い。
「おいで」
「……」
ベッドに乗ると、手を引かれて何も身に纏っていない龍河さんの太腿に座る。
そして、伸ばされた手が私の左頬に触れると、ゆっくり目を閉じた。