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冷血な獣
第16章 飼い猫
でも流石にこんな思い出を聞かされても、うっすらさえ思い出せないが、子供の頃の約束を今掘り起こすつもりはない。例え、りょう君が約束を果たそうとしても―――
*
「妃南、……入って良い?」
コンコンとノックされる屋敷の扉。同時にドキッとする胸。……入って良いは良いけど、鏡の前に立った私は、鏡に写る自身の姿を見て狼狽える。
「どうぞ……」
こんなこと、生まれて初めてだ。まさか、ウエディングドレスを着るなんて……。似合ってないし、そわそわするけど、屋敷についてすぐウエディングドレスを選べと言われて従った。シンプルなAラインの、純白ドレス。十着ぐらいある中から一番好みの物を選んで着ただけ。でも、初めて着たからなのか緊張する。
「……妃南、着替えたな」
部屋へ入り、私の姿を見るなり不機嫌そうに顔をしかめるりょう君は、あの時こう言った。妃南、俺さ、近々結婚させられんだ。会社の為の政略結婚。俺はそれを邪魔したい。だから、俺と結婚するふりしてくれない?