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冷血な獣
第8章 嫉妬

『それじゃあ今から荷物を運び出すから。元々荷物は少ない。大きい家具と家電以外はすぐに運び出せる……』

龍河さんと大家が話している間に龍河さんの携帯が鳴ると、龍河さんはジーンズのポケットから携帯を取り出して電話に出た。

『もしもし』

携帯を耳に当て、着信相手と会話を始める。

『ああ………………はっ? ………………えっ? ………………』

だけど、少し様子が変だ。
何かに驚く様な声を出したかと思えば、静かに携帯を耳から離して電話を切る。
その後もひたすら無言。
そんな龍河さんに、私は恐る恐る質問した。

『……どうしたんですか? 電話誰からでした……?』

『鷺沼だった』

『えっ!? 鷺沼さんって、和仁社長の秘書の!? それで何て……?』

『…………らしい』

『はい? すいません、聞こえないんですけど』

ボソッと呟いた龍河さんをじっと見ながら私が聞き返すと、龍河さんは今までに見たことの無いぐらい呆然とした顔で続ける。

『和仁社長が俺の契約したマンションを解約した……。他の不動産屋との契約も、ホテルに泊まる事も、和仁社長の娘と婚約しなければ邪魔をすると言われた……』

『それって……』

『俺には行くところが無い……』

絶望しているかの様な表情をする龍河さんを励ますつもりで、私は明るく話し掛ける。

『だ、大丈夫ですよ! ホテルに泊まれなくなったなら、私の部屋がありますって!』
『佐伯の部屋……』

だけど龍河さんは、それが一番嫌だと言わぬばかりの目でじっと私の顔を見つめていた。
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