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飼っていたペットに飼われています。
第52章 帰巣本能(スイ目線)
※命を粗末にするような発言があります。
ご注意ください。


 憎くて妬ましくてたまらない人間達の匂いを避けるように、都会を離れて何日も歩き続け、気づけば自分が産まれた湖の前で足が止まっていた。

 釣りをしていた初老の男が慌てたようにこちらへやってきて話しかける。
「お客さん! うちは今シーズンもう営業終わってるよ! どこからやって来たんだい?」
 黙ったままの俺の様子を見て、何かを察したように優しい声でこう続けた。
「こんな薄着で山の中を歩いてきたんじゃ寒いだろう。どれ管理人室でコーヒーでも飲まないか?」

 湖から15分ほど歩いたコテージに案内され、暖炉の前で温かいコーヒーを出すと男は語り始めた。
「私は、ここの経営をしていてね。今は息子に譲ったんだがシーズンオフは海外に行ってるんだ。その間だけ私が時々ここに来て変わったことがないかを見ているんだよ。」
 何も言わずに熱い液体を流し込む俺を見ながら続ける。
「…君は何か、よほど辛いことがあったんだね。しばらく帰りたくはないかい?」
 俺は素直に頷いた。
「ここなら誰も入ってこない。雪が溶けるまでなら好きなだけいるといいよ。部屋にある物は自由に使ってくれて構わない。息子の服は君には少し小さいかもしれないがね。」
 高木と名乗った男は俺の素性も聞かずにコテージと車の鍵を預け、必要なくなったら山のふもとの自分の家まで返しに来るよう伝えると部屋を出て行った。

 恐ろしいほどの執着を持つ俺が再びサキの気配を感じれば、きっとまた自分を見失い傷つけてしまう。
 今度は細い手足をへし折ってまで自分の元から逃げられないよう、永遠に閉じ込めてしまうかもしれない。
 自制できないほどに育った醜い想いから彼女を守るためには、この湖に還るしかないと新月の夜にあの湖の奥深くへ何度も進もうとするが、親切な高木に迷惑を掛けるのも忍びないと引き返した。

 その他の日も、毎晩月の出る時刻にこの湖にやってきては揺れる月の姿に白いサキの肢体を重ねて話しかける。
「なあ、いま幸せにしてるよな? 毎日笑ってるよな? 寒くなったからちゃんと温かくして寝ろよ。」
 そうして日が出る頃にコテージに戻って酒を飲み、死んだように眠る。

 そんな日々を幾度も繰り返していたから、幻聴が聴こえ始めたのかと思ったんだ。
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