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飼っていたペットに飼われています。
第56章 認め合う身体(スイ目線)
 包み隠さず自分のすべてを話した。
「ごめんな。」

 サキはただ呆然としていた。
「自分を食べるためだけに近づいてきた、得体の知れない俺が怖くなっただろ?」
「……こわくなんて、ない。」
 言葉とは裏腹に、答える声は震えている。
「兄弟や死体を食べて作りあげた、人間でも動物でもないカラダに抱かれてたなんて気持ち悪いよな?」
「……きもちわるくも、ないよ。」
 ああ、そうか。こうやって彼女はいつも、どんな嫌なことにも1人で震えて耐え抜いて俺の側にいてくれたんだ。
 でもようやく、君を閉じ込める醜い心から開放してあげられるよ。
「…大丈夫だよ。サキのケガが治って手当ても必要なくなったら、もう指1本触らない。あの部屋からも出ていっていいから。今までのこと考えたらそれこそ信じられないだろうけど、何処かで元気にしててくれたら俺はそれだけでもう充分なんだ。…欲を言えば、たまには顔見せてほしいけど。」

 しばしの沈黙のあと、サキが俺の目を見て確認する。
「……さっきの話、本当?」
「本当の本当。もう、絶対サキに近づかないって約束する。」
「…違う。スイのこの手は、もしかして私を守るために作ってくれたの…?」
 俺の手に、小刻みに揺れるサキの手が優しく重ねられた。
「…うん。」
「じゃあ、スイの足は私の隣を歩くためにあって、目や耳や鼻も私を見つけるためにあるって思っていい?」
「…いいよ。」
「だけどスイの青い舌は、鈍い私がすぐ気づけるように前のまま残してくれたんだね。」
「サキがそう思ってくれるなら、そうかな。」
「………そんなの、そんなの…信じられないよぉ…。」

 泣き出す彼女を戸惑いながら抱きしめて問いかける。
「…ヒトになりそこねた紛い物のカラダだよ。それでもいい?」
 俺の胸の中で彼女は大きく首を振った。
「そんなことない! 私を抱きしめてくれるスイの大切な身体、全部が好きだよ。そんな風に言わないで…。」
「わかった。」
 1度体を離し、サキの鎖骨の下あたりにそっと触れた。
「じゃあサキも、もうこんな風に自分を痛めつけないで?」
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