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飼っていたペットに飼われています。
第58章 高木夫妻(サキ目線)

「「え⁉」」
どこから見ても上品な年配の女性といった雰囲気の奥様に2人で目を向ける。
「私の場合は別の星で長く過ごすうちに、元あった機能はどんどん退化して、完全に見た目も中身もその星の生き物になるのよ。だから香りも人間と変わらないでしょう?」
スイが黙って頷く。
「スイくんみたいに才能のある星の生まれじゃないから、もともとあまり五感なんかは優れてなかったけど、その代わりスイくんも持っていない便利な力があるのよ。」
「…透視と予知能力、ですか?」
スイがそう言うと、奥様は手を叩いて喜んだ。
「そうよ! やっぱりとっても頭がいいのね! 15年前はまだ少し目も良かったから、コテージから湖で遊ぶあなた達を見ていつかこんな日が来ることを主人に話しておいたの。2人が苦しむこともわかっていたけれど、決まりで口を出すことができなくてごめんなさいね。」
とんでもないと首を振ったサキに向き直り、奥様は続ける。
「これからも大変なことはまだあると思うわ。でも、信じて一緒にいれば大丈夫よ。彼、すごい人になるわ。私には視えるの。」
「はい…。ありがとうございます。」
まだ驚きながらもお礼を伝えたサキに、ひとつアドバイスをくれた。
「彼、何でも優れているのにサキちゃんに対してだけは少し抜けているところがあるの。だから、何でも決めつけないで素直な言葉で伝えるといいわ。」
「? …はい、頑張ります!」
続いて奥様はスイの方を向いて告げる。
「スイくんもよ。彼女、あなたが思っている以上に疎いわ…。やり過ぎくらいの表現で伝えた方がいいわよ。すごく魅力的だから良い人も悪い人も沢山寄ってきちゃうし。ちゃんと守ってあげて、なるべく優しくね?」
「やっぱりそうですか…。心得ておきます。」
疎い、ときっぱり言われてから話が頭に入ってこないサキを尻目にスイは再び頭を下げた。
最寄りの駅まで送ってくれた高木夫妻は、またいつでもおいでと優しく声を掛けてくれ、見えなくなるまで手を振ってくれた。
スイは電車でもずっとサキの手を握ったままでいてくれる。
大好きな人と手を繋いで同じ家に帰れる幸せを、何度も何度も噛み締めた。

