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第27章 幸村 順一

2月初旬、昼休みに会社近くの定食屋の入り口で、同期の井上と出くわした。

「おぅ。今日こっちなんだ。」

「んー。」

表に並んだ本日のおすすめのサンプルを睨みながら上の空で応えてくる。

井上は同期の森崎と結婚したところ。
同じ部署内での結婚だと、どっちかが辞めるか異動するのが慣例で。かく言う井上も、4月から神戸に転勤が決まってる。ま、このタイミングで神戸に欠員が出たのはラッキーと言っていいだろう。あと関西圏の営業所は滋賀と和歌山で。
どっちも遠いから通勤が大変だ。その点神戸なら、まだ余裕で通勤圏内。井上もそれを見込んで、神戸にも通い易いジェイアール沿線に家を買ったらしい。ま、女性の一般職は異動先も限られるから、中々難しいのが実際のところで。寿退社の女性が多かった時代ならともかく、今日日の共働き世代にこの慣例自体いかがなもんかな、って気はしなくもない。が、会社自体がそんなデカいわけでもないから、社内結婚(というか部署内結婚かな)の比率もそれほど高くなくて。この慣例を覆すほどの事例がない、ってところらしい。

店に入り、示し合わせたわけでもないけど、自然と同じ席に座る。
まぁ偶然でも知り合いと一緒に店に入ればよっぽど合わないヤツでない限り、フツーはそうするだろう。

「どうよ、引き継ぎ。」

おしぼりで手を拭き、お互い決めたメニューを注文しながら口を開いた。

「全然…問題山積だよ…」

「そうなのか?」
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