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第4章 高野 皐月
「…皐月に先に聞こうかとも思うたんやけど、お父ちゃんらの予定が合わんでな。」

「…………」

「お前の、生みのお父さんや。」

「…………」

私のことを。
親しげに皐月と呼んだ。
何となく気付いた。

その人は、名乗った後、自分の話を始めた。
赤紙が来て、戦争に行く前に、奥さんに赤ちゃんができたこと。
従軍してからも、戦地に行くまで、ずっと手紙で奥さんと遣り取りをしてたこと。
復員して帰ってきたら、家も、奥さんが子供を産んだはずの病院も、空襲で焼けてしもて、奥さんや赤ちゃんがどこに行ったんかも、資料も何も残ってなかったこと。
探そうにも、生きとるか死んどるかも、何もわからなさすぎて、探すに探せんかったことを話した。

「富美子に、よぅ似とる…」

その人は泣きそうな顔で呟いた。

「五月に産まれるから、女の子やったら皐月にしようて、手紙で決めてたんや。」
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