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初恋
第2章 窓の向こうに
卑怯だと思った。
そういう顔を不意に見せるのは卑怯だろうと。
「帰りたいの」
俺にはどうしようもない。
「家に帰りたいの」
何の手がかりもない。
でも俺は……病室に帰りたくなかったから
ちょうどいいのかもしれない。
「……いいよ」
「本当に?」
「送ってって、やる」
どうせ何もすることなんてない。
こういう不審者の相手は、俺みたいな役立たずの……暇な人間がするべきなんだろう。
警察も医者も看護師も
こんな奴の相手をするほど暇じゃないんだ。
そんなの俺が、身をもって知っている──。
「ありがとう!」
ケロリと元の笑顔に戻った彼女は、俺の手を掴んだままだ。
俺は振り払わない。
ふたり一緒に、歩き出した。