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うつむきピーターパン
第1章 誘惑

シューズが体育館の床をこする音がせわしなく響いている。
まだ慣れない一年が弾いたシャトルがぎこちなくネットの上を行き交う。
一息つきたくなって体育館の外になると雲ひとつない青空に白い球体が威張って辺りを照らしている。
五月にしてはずいぶん暑いと思ったが、それでも熱気に包まれた体育館の中よりは気持ちが良い。
こんな天気のいい日にわざわざ室内にこもりっきりだなんて、バドミントンが陰湿な競技のように思われてくる。
ふかしたタバコの煙は体育館の陰から青空に消えていく。
「あれ、先輩タバコ吸うんですね。」
新入生の美咲は半袖半パン姿ではすらっと伸びた真っ白な腕と足が一層華奢に見える。
小さい顔には意外にも鼻筋がしっかり通っていて、ほどよくカールされた栗色の髪の毛がわずかに風に揺らされている。
美人だが尖ったものを感じさせない美咲は4月のうちからサークルの男子の人気者になっていた。
「吸い始めてからそんなに経ってないけど案外いいもんだよ。」
声が少し高めに出てしまったことが少し恥ずかしかった。
美咲はそろそろ自分のラケットが欲しいから選ぶのを手伝って欲しいと言い、一方的に話を進め体育館の中に戻っていった。
一瞬真紀のことが頭によぎったが、美咲の細いがくっきりとした目の奥に自分を制するようなものを感じて断ることができなかった。

