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キスをして
第6章 間宮の逆襲
「泣くな‥突き放せよ…じゃないと期待させるだけだ」

突き放せと言うクセに抱きしめる力は強くなる。
そんなに締めたら苦しいよ。

「送る‥一緒にいたくないだろうけどこんな夜中に一人で外には出せない」

再度車を発進させて私のアパートへ向かう。

空気が重い。
重くさせた原因は私にある。貴幸の優しさを知ってる…私が呼ぶ限り黒沢さんであろうとしていてくれたのかもしれない。貴幸と呼ばなくなったあの時からずっと――。

アパートの前まで送ってくれようとしたけどもう大丈夫だからと商店街の前で降ろして貰った。真っ暗な商店街をトボトボと歩く。
貴幸に言われたことが頭を巡る。どうすればいいのか‥私はどうしたいのか分からない。頭はただ台詞をリピートし続けるだけで考えることを拒否してしまっているみたい。

アパートの階段を登り部屋の鍵を開けようと鞄を探っているとスマホの着信が鳴った。
『小塚さん』の文字が表示されている。

気持ちが揺らぐ。
話を聞いて欲しい訳じゃないけどただ誰かに話をしていて欲しい。
だけど出たところでまともに話せそうにもない。
それにいらぬ心配をさせる程の仲でもない‥。

鳴り続ける着信を無視して部屋の鍵を開ける。
服も着替えず体を引きずるようにベッドに潜った。

一度途切れた着信は再び鳴ることはなかった。
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