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キスをして
第8章 二人の関係
「別にハッキリしろなんて言わねぇよ。グダグダパニクってくれてる方が俺は都合がいい」

―!!
近付いてくる黒沢さんを思わず避けようと後ろに下がると段差に躓き座り込んでしまう。
私の前にしゃがみ込んで左右を腕で塞いだ。

「俺は律香の抜けてるとこは好きだけどさ買い被り過ぎだ。会社じゃ何もしないと思ったのか?皆お前が思う程クソ真面目じゃねぇよ」

寄せられる唇から顔を反らすと顎を掴まれ戻される。

当てられた唇が熱い。
口をこじ開けようとする舌から逃げたくて頭を振ろうとしても後ろから掴まれた頭は動かせず突き放そうとしても背中に回された腕は私じゃビクともしない。

「ふ‥ん、だめ、貴幸‥」

「アイツとはするのに?」

小塚さんを引き合いに出すのは卑怯だ。
思考が止まってしまう。
でも‥貴幸のキスは私を冷静にする。小塚さんとのキスはあんなにドキドキして体が熱くなって切なくなるのにこんな状況でも貴幸からされるキスにそんな風にはならない。

高校生の頃にクラスの女の子が言っていた。彼氏にキスされるとドキドキしてその先がしたくなる。

私はやっぱり馬鹿なのかもしれない。
鈍くて自分の事に疎くて。
なんでそんな違いにも気付かなかったんだろう。
ううん、私にはそんな風に思う気持ちなんて存在しないと思ってた。
違ったんだ。
私はまだそう思う人に出逢えなかっただけだった。

ごめん。貴幸私はやっぱり酷い人かも。
だって面倒は嫌だと思ってただけなのに気付いた瞬間悲しくなってきてしまう。
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