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キスをして
第9章 小塚の本懐
久し振りに見る律香は何時になく機嫌がいい。
幸せだと滲み出ている。それでも、どんなに浮かれていても仕事だけは完璧にこなす姿は怖いほどに綺麗だ。

そんな律香を見ているのが好きだ。
何時までも引きずっている自分が情けないとは思うが律香の幸せを壊そうとは全く思わない。
自分が律香に愛されていないということが分かった今片思いというよりは一度でも好きだと思った女にただいい奴だったと思われたい。
初めて自分の感情に気付いた律香を支えていようと思う。
それが女々しい事だと分かっている。分かっているが律香が他人をどんな風に愛するのか知りたい。

そんな事をついつい考えながら後方で聞こえるデザイン課の笑い声を聞きながら仕事をする。
時刻は22時を過ぎた頃だ。

「黒沢さん」

「どうした?」

珍しく律香が小さな声で話しかけてくる。

「この案件確認していただけますか?」

律香に見せられたのはスマホに表示されたラインだった。

「『帰れなくなったから鍵を自宅玄関のポストの底に張り付けておくから受け取ってね』‥帰ってこないって?」

「いえ、疑問を感じているのはこちらです」

言われた通りに続きを見ると誰かに愚痴りたいんだと納得した。

―食事は冷蔵庫に作ってあるから温めて。足りないときは冷凍庫の作り置きを食べてね―

「支店が移動になったのか?」

「上手いですね。転勤ではありませんが派遣されてまして」

「待機を指示されてるんだな」

「理不尽だと思いません?」
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