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キスをして
第10章 珍事と感傷
「だから今日は迎えに来なくて良いから」

『昨日の会話が予言になってしまったね。必要な物があれば持って行くよ?』

「遅くなるまでには取りに行くから大丈夫」

『忙しいんでしょ?リスト送ってくれれば出掛けるついでに持って行くよ』

「ついでならお願いします」

『分かった』

誠司への連絡を済ましデスクに向かう。
デスクの中からイヤホンを引き出して装着する。
こうすれば自分が一人になった気がする。こうなったら自分との戦いだ。

誠司に持たされたお弁当すら食べずにひたすらデスクに向かう。眞木君が淹れてくれたコーヒーもすっかり冷めてしまっている。

外に意識をずらした数分の間に頭の中に響く音楽が急に止んだ。

「本当に仕事に集中し出すと何もしなくなるんだね」

「へ?え?あれ?なんで?」

「なんでって頼まれた物持ってきたよ」

事務所内に普通にいる誠司に頭がついていかない。

「声何回掛けても返事ないから入って貰った」

「橘さんにお願いしたんだよ。交換条件も付けられたけど」

「交換条件?」

「小塚さんが31日暇だって言うから甘えようと思って」

「そうですよ間宮さん一人ずるいじゃないですか。どうせ間宮さん帰れないんですから」

「誠司何約束したの?」
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