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キスをして
第10章 珍事と感傷
5階に着いてエレベーターの扉が開くと大荷物を持った黒沢さんが不機嫌そうに立っていた。

「帰ったのか?」

「帰りましたよ。これ誠司が黒沢さんに渡して欲しいって」

台車をエレベーターに運びながらメモ用紙を雑に開いて眺めている。

「ちょっと積み込み手伝え」

「嫌ですよ今帰ってきたんですから」

「乗れ」

台車で出口を塞いで出させて貰えず下まで降りるしかない。

「小塚さんってどんな人?」

「どんなって言われても」

「惚気なしな」

「どんな…優しそうに見せかけて実はそうでもなかったり、怒ると容赦がなくて、人おちょくるのが好きで私の予想では多分元ヤン」

「…どこが良いわけ…」

「惚気なしって言ったじゃない。それが何?」

「いや、気になっただけ」

絶対嘘だし。
メモに何書いてあったんだろう。

結局メモの内容を聞くことは出来ず積み込みが終わったらすぐに出て行った。
丁度セーターのポケットのスマホがけたたましくなって考えを遮られた。

『眞木です。鹿島さんからデザイン変更の件で電話です』

「すぐ戻るから用件途中まで聞いてて」

全くゆっくり考える時間くらい与えて欲しいものだ。
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