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キスをして
第10章 珍事と感傷
ずっとリビングに飾られた動かない時計は祖父から貰ったのではなく形見だ。

優しい両親だったが父は祖父が嫌いだった。
曾祖父と祖父は2代揃って時計職人だった。戦争前に曾祖父はスイスに渡り戦争を免れていた。そこで生活していた時に祖父はスイスで友人を作った。その友人が俺の世話役をしてくれたダヴィッド氏だ。
祖父が日本に戻ったのは22歳の時ですぐに曾祖父の友人の子供と結婚した。
その頃の日本での時計産業は酷い物だった。スイスで修行していた祖父からすれば辛かっただろうと思う。

祖父は自分の店を持ち時計に全てを掛けていた。子供の誕生日も遊んで欲しいとせがまれても祖父は時計と向き合い続けた。それが原因でもあり父は祖父を嫌い時計職人の仕事を嫌った。

そんな祖父も年をとれば穏やかになっていった。俺は祖父が好きだった。父は嫌がったが俺は緻密に計算された時計の仕組が好きだった。祖父の作り上げるどこにも売っていない凝ったデザインや細かな細工の施された時計達が綺麗だと思ったのだ。

小学生の時に初めて時計を作った。祖父に頼りきりで作った物だったがすごく嬉しかったのを覚えている。勉強もさしてせず祖父の作業場に入り浸り時計の勉強をし続けていた。
父に言われるがまま進学校に何とか入学できたが時計ばかりを弄っている俺には無価値で勉強する暇も作らず時計に向き合い続けた。
祖父と同じように。

高校に行って良かった点は今の友人の殆どがその頃の友人だ。真面目に進学だけを考えている奴は俺に話し掛けなどしなかったから高校の中でも不良グループに入れられていた。

成績が悪いと父は時計などするなと怒った。今の時代時計屋なんかで生きていくのは無理だと言われた。
しかし、祖父は違った。

「誠司。彼奴は駄目だと言うがわしは父親に遠慮して行かないなんて言うならお前が嫌いだ」

「スイス行って成功するとは限らないのは確かだよ。父さんが言いたいことも分かるんだ」

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