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キスをして
第10章 珍事と感傷
完成までは遠かった。
祖母は祖父の後を追う様に半年で亡くなった。葬儀はただ泣くことしかできなかった。
間に合わなかった。
祖父とした約束は時計を作ることだった。弱っていく祖母はよく昔を懐かしんだ。祖父の家の時計は既製品だった。それは祖父が自分の作品を家に置くことを嫌がったからだ。作品を置くことで自分の方向性の基準を作りたくなかったのだ。
祖母は祖父の時計が欲しかった。昔からずっと本当は自分の側に欲しかったのだ。
それを知った祖父は最後の作品は妻にと考えていた。
「ごめん‥約束守れなかった。出来なかった。ごめんっ」
俺に出来る事なんて墓前の前で謝ることしか出来なかった。
ただ毎日泣いて許しを乞うことでしか無力さの逃げ道が見つけられなかったんだ。
「誠司。あの人はそんな事を怒る人じゃない‥君がそんなになってしまっては彼も悲しむよ。完成してあげてくれないか。形にすることで弔いにもなる」
仕上げだけを残して箱に片付けられたのはただの時計じゃなく祖父の祖母への思いだ。
2ヶ月掛けて完成した祖父の時計はとても美しかった。
もう一度箱に片付けてしまうことは出来ず部屋に飾った。
ダヴィッド氏に動かさないのかと言われたが祖母が動かすはずだったものを動かす気にはなれなかった。
ダヴィッド氏に暇を貰い祖父母の眠る墓前で時計を見せ完成を知らせた。
それでいいのかは本人に聞くことは出来ないからもう分からないままだ。
「だからこの時計は壊れていないんだよ。動かしたくないだけなんだ」
祖母は祖父の後を追う様に半年で亡くなった。葬儀はただ泣くことしかできなかった。
間に合わなかった。
祖父とした約束は時計を作ることだった。弱っていく祖母はよく昔を懐かしんだ。祖父の家の時計は既製品だった。それは祖父が自分の作品を家に置くことを嫌がったからだ。作品を置くことで自分の方向性の基準を作りたくなかったのだ。
祖母は祖父の時計が欲しかった。昔からずっと本当は自分の側に欲しかったのだ。
それを知った祖父は最後の作品は妻にと考えていた。
「ごめん‥約束守れなかった。出来なかった。ごめんっ」
俺に出来る事なんて墓前の前で謝ることしか出来なかった。
ただ毎日泣いて許しを乞うことでしか無力さの逃げ道が見つけられなかったんだ。
「誠司。あの人はそんな事を怒る人じゃない‥君がそんなになってしまっては彼も悲しむよ。完成してあげてくれないか。形にすることで弔いにもなる」
仕上げだけを残して箱に片付けられたのはただの時計じゃなく祖父の祖母への思いだ。
2ヶ月掛けて完成した祖父の時計はとても美しかった。
もう一度箱に片付けてしまうことは出来ず部屋に飾った。
ダヴィッド氏に動かさないのかと言われたが祖母が動かすはずだったものを動かす気にはなれなかった。
ダヴィッド氏に暇を貰い祖父母の眠る墓前で時計を見せ完成を知らせた。
それでいいのかは本人に聞くことは出来ないからもう分からないままだ。
「だからこの時計は壊れていないんだよ。動かしたくないだけなんだ」