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キスをして
第10章 珍事と感傷
「おじいさん嬉しかっただろうね。期待していた孫が自分の作品を継いでくれたんだもん」

「嬉しかったのかな」

「だって自分が教えていた孫が自分の時計を仕上げられるくらい育ったんだよ?」

「でも約束は‥」

「確かにおばあちゃんには渡せなかったかもしれないけど誠司が悪い訳じゃない‥誰も悪くないよ。だってやれるだけのことはしたじゃない。凄いよおじいさんの気持ち伝えてあげようとしたんでしょ‥私ならそんな想いは辛くて運べないもの」

「…ありがとう」

冷めてしまったコーヒーを流し込み誠司に向き直った。

「ねぇお父さんと和解したの?」

「あ~まぁ‥したかな?」

「してないんだ?」

「会話はするよ。ほぼほぼ言い合いだけど」

「じゃあ仕事は認めてくれたのね」

「認めたのかなぁ…意外に成功してて反論しづらくなっただけな気もするけど」

こぼれた笑みに少し安心した。

「よし!じゃあ私がご飯作ろうかな」

驚愕の顔を向けられてあまりの自分の信用の無さに笑えてくる。

「酷っ!そんなに不安かな」

「食べられるよね」

「食べられたものしか作らないから大丈夫!」

「自信を持って怖いこと言うね」

呆れながらも私を止めない誠司に了承を得たと勝手に決めてキッチンへ向かった。
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