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キスをして
第10章 珍事と感傷
「本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。死んだりしないって食べられるものしか入れないから」

「やっぱり手伝おうか?」

「手伝うと言うなら見ないで。緊張して更なる失敗を…」

「っ向こう行ってるよ」

よし!これで監視役はいない。
最後に料理したのはいつだっただろうか大学に入ったばかりの19歳以来じゃないだろうか。

いざやるとなると何から手をつけるんだったかな。
落ち着いてやれば大丈夫。味覚は大丈夫な筈だし。
出来ないはずはない!

―――――

見ないでと言われて仕方なくリビングのソファに足を投げ出して座る。
うっかり見てしまうと手を出したくなるといけないと思ってキッチンを背にして肘起きに背を預けた。

この位置からだと壁に掛かった祖父の時計と向かい合う形になり、気を使っている律には申し訳ないがやはり考えてしまう。
人に話せば楽になるかと思ったがなかなか切り離すことは出来そうにない。
悔恨の情に縛られ続けてきた自分にはどう対処すればいいのか分からない。
律に言われたことは嬉しかった。だけど切り替えるのは難しい。

そんなどうすることも出来ない感情に流されてしまいそうになるが彼女が料理をすると言い出したのは正解だ。
背後を見ることすら出来ない。
大きな音がするとか叫ぶとかするわけではないが時々小さな声で「違った?」「どうだったっけ?」と呟いているのが聞こえる。
いっそ騒がしい方が呆れてしまえるがそうもいかないらしい。
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